秋田地方裁判所 昭和26年(行)9号 判決
原告 渡辺由蔵
被告 能代税務署長
一、主 文
原告の請求は、棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「昭和二十五年十二月被告のなしたる原告に対する昭和二十三年度所得金額十五万八千八百円の更正決定は、金二万一千八百五十円に変更する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、「被告は原告に対し昭和二十三年度所得額金三十万円の決定通知を昭和二十四年五月十五日送達してきたので、これに対し原告は、その審査請求を同年五月三十日提出したが、被告は何等の決定通知をしないのに拘らず、原告に対し十五万八千八百円の更正決定をなし、昭和二十五年十二月中原告の財産を差押え、公売期日を同月十四日となした。しかしながら原告の昭和二十三年度所得は、二万七千九百五十円である。即ち畑耕作収入一万九百円(能代市字東赤沼所在の畑三反歩の収入は一万五千四百円で、これより経費四千五百円を控除した金額)、貸金利子収入八千五百円(高杉貞蔵外三名に対する貸付金四万九千円の利子一万四千七百円より手数料、取立費用等六千二百円を控除した金額)、及び無尽収入一万三千三百五十円(斉藤常蔵外五名の企無尽の蔵元手数料)の合計三万二千七百五十円が原告の昭和二十三年度所得総額であつて、この内より四千八百円の基礎控除をすれば課税の対象となるべき金額は二万七千九百五十円である。従つて、前記被告の原告に対する更正決定は不当であるから変更を求めるため、本訴に及んだ。」と述べ、被告の答弁事実を否認し、「能代市字中川原所在の畑二反歩は水害のため収獲皆無であり、原告は昭和二十二年六月十五日荷馬車業を廃業したので、昭和二十三年度小運搬業による収入はない。しかして、住家土蔵一棟を訴外長内松之助に譲渡したことはなく、小運搬用の馬は、昭和二十二年十一月長内松之助に譲渡したもので、その代金は同年十二月収入したから昭和二十三年度所得税の対象にはならない。又小運搬用の馬車は昭和二十二年六月末訴外大山勲翁に譲渡し代金は同年十月中に受領したので、これ亦昭和二十三年度の所得税の対象とはならない。」と附言した。(証拠省略)
被告指定代理人は、本案前の答弁として、「原告の訴は却下する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、「(一)被告の原告に対する昭和二十四年四月三十日所得金額三十万円との決定に対し、原告より口頭の異議申立(所得税法第四十九条の審査請求は、要式行為であり、口頭による異議申立は適式な審査請求とはいえないから、同請求はないことになる。)によつて昭和二十四年十月二十六日右所得金額三十万円を十五万八千八万円と訂正原告に通知したもので、この訂正は審査請求に対する決定ではなく、被告自身の自発的処分であるから、本訴は訴願前置主義(所得税法第五十一条第二項、行政事件訴訟特例法第二条)に違背して訴を提起したものであり、明かに訴訟要件を欠く不適法な訴として却下さるべきである。(二)仮りに原告が法定期間内に適法の審査請求書を提出した場合でも、本訴の提起は、原告が処分のあつたことを知つた日即ち原告の自認する昭和二十四年五月十五日から六ケ月を経過した昭和二十六年二月十三日であるから行政事件訴訟特例法第五条に違反し、本訴は不適法な訴として却下を免れない。」と述べ本案につき、請求棄却の判決を求め、答弁として「原告は昭和二十三年中に次に述べるような所得を有していたものであるから被告の定めた本件更正決定中の所得金額は正当である。即ち、
(一) 小運搬業の所得として金四万円がある。即ち原告は十四、五年前より小運搬を業とし、昭和二十二年所得金額五万六千円の決定に対しては既に納税しているのであるが、昭和二十三年一月一日から同年七月十五日まで小運搬業を行つているものである。しかして、小運搬に対する本人の記録は全くないので、昭和二十二年の所得金額について、原告と同額の決定を受けた他の同業者の昭和二十三年の所得状況は年間おおむね八万円であることから推定するに、原告の小運搬業を営んだ右期間一九六日を目安として四万円以上はあつたものとみられる。なお、当時小運搬業者間に開業登録をしておれば、所得税を課税され、廃業届を出せば課税されないとのことが流布され、課税を免れるため廃業届を出すものが多数あつた実情で、廃業届を出している者でも実際に稼動しているものに対して課税をして貰いたいとの陳情が小運搬業組合からあつたこと及び原告が小運搬使役用馬を売却したのは昭和二十三年十一月であることよりしても、原告が昭和二十二年に廃業していると届けているのは、所得税の課税を免れんがためであることがうかがわれる。(二)無尽による所得として四万六千七百六十二円がある。即ち無尽による所得税法にいう収入金額は、蔵元報酬、座料及び蔵元の責任において徴収する各種収入(乙第五号証添付の会則第四条の配当、第十条の除名収入並びに無尽収入、第十二条の一時取立収入)等であり、右所得金額の内訳は別紙(一)の通りである。(三)貸金による利子所得として一万七千五百九十五円がある。その内訳は別紙(二)の通りである。(四)畑耕作による所得として十万一千五百円がある。即ち、能代市西赤沼野菜畑五〇セ所得金額七万一千五百円(標準一万四千三百円)、同市中川原野菜畑五〇セ三万円(本人の申立による乙第八号証)の合計十万一千五百円である。(五)譲渡所得として九万四千七百五十円がある。即ち、(1)小運搬使役用馬一頭を昭和二十三年十一月長内松之助え四万円で売却し、譲渡所得七千五百円を、(2)右と同時に同人え住家、土蔵各一棟を五万円で売却し、譲渡所得二万円を、(3)小運搬用馬車一台を同月訴外大山由蔵え三万円で売却し、一万二千円の譲渡所得を、(4)原告は昭和十年頃より受小作している能代市西赤沼十二番地所在訴外大塚春治所有の畑五反歩の小作権を自作農創設特別措置法による買収決定前に訴外大久保清治外六名え十一万五千円で売却し、譲渡所得五万五千円を各取得したものである。(六)事業等の所得として十万円がある。即ち原告の不動産売却事実は昭和二十二年五月から同二十五年五月までの間二十一件に上り、且つ右売却物件はおおむね原告の貸金の譲渡担保として取得したものを売却したものであり、金貸業に附随した営利を目的とした継続的行為により生じたものであつて、所得税法第九条第一項第九号の事業所得に該当し、その所得計算は別紙(三)の通り十一万六千七百二十六円となり右譲渡に関する諸経費を差引いても十万以上の所得があつたものである。
以上のように原告の昭和二十三年度所得四十万六百十円であるが原告の所得についての帳簿はなく、又いわゆる無申告者であり、税務署員の調査に際しても事実を提供せず、実態把握に困難を来たしたので、低額に過ぎる十五万八千八百円と更正決定したものである。なお、原告は、昭和二十三年度所得は二万七千九百五十円であると主張するが、次の二点より原告の主張自体根拠がない。(1)原告の生計費等からその所得金額を考えれば、原告は昭和二十三年中において家族五名(同年七月次女美代子死亡により年末においては四名となつている。)を擁し、能代市においては、相当の生計を営んでいたものであるから、これを同市の同年度理論生計費(一人当と月平均一千九百三十一円五銭)四名の年間生計費九万二千六百九十円四十銭と次女美代子六ケ月分生計費九千九百四十四円八十二銭の合計十万二千六百三十五円二十二銭となり、これに所得税法上必要経費と認められない公租公課五千三百十二円(所得税二千五百円、市民税二千八百十二円)を加算すると十万七千九百四十七円となる。この外長男由男の死亡(昭和二十三年二月死亡)、次女美代子死亡によつて医療費、葬式費用等のため多額の費用を支出していることは原告も認めるところであるから、原告主張の所得額はこの点より根拠がない。(2)原告は前述した口頭による異議申立の際、その所得を一応書面を被告に提出しているのであるが(乙第八号証)、これによれば、貸金利子収入一万四千七百円、無尽による収入二万九千円で、これら収入に要する経費一万三千四百三十八円を差引くと三万二百六十二円となり、この外畑耕作による収入三万円計六万二千六百二円となるから、所得に対する原告の主張自体矛盾があるといえる。
右詳細に述べたように被告の原告に対する昭和二十三年度所得更正決定は正当であるから原告の請求には応じられない。」と述べた。(証拠省略)
三、理 由
(本案前の答弁について)
被告が昭和二十四年五月十五日原告の昭和二十三年度所得金額三十万円と決定通知したことは当事者間に争いがないところ、所得税法第四十九条の規定による審査請求は要式行為であることは被告指定代理人主張の通りであるが、証人小田部俊治の証言により真正に成立したと認められる甲第三号証に、証人小田部俊治の証言及び原告本人の供述を綜合すれば、原告の依頼により税務代理士である小田部俊治が昭和二十四年五月三十日「税務協会雑誌」掲載の書式にもとずいて審査請求書及びこれに添付する必要がある証拠書類とを作成し、原告は右書類を被告に提出したことが認められる。右認定に反する証人黒津司の証言の一部は前掲各証拠に比照して信用しない。被告は、右審査請求について三ケ月を経過しても決定をしなかつたことは自認するところであり、本訴が右審査請求の日より三ケ月以上経過していることは、本件記録に徴し明かなところである。しかして行政事件訴訟特例法第二条但書の規定は、本件の場合においても適用され、同条項の趣旨とするところは三ケ月を経過したときは、訴を提起することができるかを定めただけであつて、訴を提起すべき義務を生ぜしめたものではなく、出訴期間がこの時から進行するものではないから、本件の場合右審査請求によつて出訴期間が遮断され、これに対する決定のない場合は何時にても訴訟を提起することができると解するを相当とする。従つて、本訴は適法であるというべきであるので、被告指定代理人の訴願前置主義及び出訴期間経過による本訴の不適格の主張は採用しない。
(本案について)
よつて、進んで本案の本件更正決定の所得金額が正当であるかどうかについて按ずるに、課税所得金額に関する取消変更訴訟においては所得が原告にありと主張する被告たる行政庁においてその事実を立証する責任を負うものと解すべきである。そこで被告がその事実につき立証をつくしているかどうかを次に検討する。
(小運搬業の所得四万円について)
成立に争いがない甲第一、二号証によれば、昭和二十二年七月十五日廃業の日を同年六月十五日として陸上小運搬組合長に廃業届を提出していることは認められるが、民事訴訟法第三百二十三条の規定により真正に成立したと認められる乙第七号証、証人石井文治の証言により真正に成立したものと認められる乙第二十一号証同第二十五証の二に証人渡辺佐吉、同大沢正治の各証言を綜合すれば、原告は昭和二十三年七月十五日まで小運搬業を営んでいたこと、廃業届は単に組合員が組合から脱退するに過ぎず、営業は営むことができたこと、昭和二十四年二月能代市の大火で原告の取引先が大部分焼失し、焼け残つた二、三の取引先からの調査によつて相当額の所得があつたこと及び昭和二十二年度における原告の所得と同額小運搬業者の所得が昭和二十三年度は八万円であつたことなどの事実を考え合せると、原告は同年度四万円の所得があつたものと認めることができる。原告訴訟代理人は昭和二十二年六月十五日荷馬車業を廃業しているから昭和二十三年度の同所得は皆無であると主張し、これに符合する証人大山勲翁、同長内松之助の各証言の一部及び原告本人の供述は信用しない。
(無尽所得四万六千七百六十二円について)
原告は斎藤常蔵外五名の企無尽の蔵元手数料一万三千三百五十円あつたことは認めるところであるから残余について考えるに、証人大沢正治同黒津司の各証言により真正に成立したと認められる乙第五号証、乙第八号証、成立に争いがない乙第十号証に、証人大沢正治、同相沢金太郎の各証言を綜合すれば、原告は昭和二十三年度十本乃至二十本(一本の口数は二十名乃至三十名)の無尽蔵元をしていたこと、及びその総収入は六万四千五百円あることが認められる。必要経費が明確でない場合における国税局作成の所得標準率(別紙一)があることが認められ、右所得標準率は相当であるから原告には別紙(一)のような所得があつたものといわねばならない。
右認定に反する原告本人の供述乙第八、第十号証記載内容は、信用しない。
(貸金所得一万七千五百九十五円について)
原告は高杉貞蔵外三名に対する貸付利子八千五百円の所得のあつたことは争はない。そこで、前示乙第八号証、乙第五号証、証人黒津司の証言により真正に成立したと認められる乙第二十三号証に、証人大沢正治の証言を綜合すれば、右別紙(二)のように合計二万七百円の利子を得ており、必要経費の控除については、反証ない限り一五%とし被告作成の標準率によるのを妥当と考えるので、右認定に反する原告本人の供述部分は採用しない。従つて原告の利子所得は一万七千五百九十五円となる。
(畑耕作所得十万一千五百円について)
前示乙第八号証証人愛沢鉄治の証言により真正に成立したと認められる乙第二十九号証、同乙第三十号証に証人大沢正治、同愛沢鉄治の各証言を綜合すれば、中川原地区の畑の所得は三万円であり、赤沼地区の畑は五反歩あることを認めることができる。
これの収獲については、証人田中長一郎の証言により真正に成立したと認められる甲第四、五号証記載内容証人田中長一郎及び原告本人の各供述を信用せず、他に収獲を算定できる証拠のない本件においては前同様の税務当局作成の所得課税標準率によるのが妥当であるから、その所得は七万一千五百円あるとするのを相当とする。
(譲渡所得九万四千五十円について)
被告は小運搬使役用馬一頭及び住家、土蔵各一棟を長内松之助え売却し、二万七千五百円を得ていると主張し、これに符合する前示乙第五号証、乙第二十三号証及び証人大沢正治の証言は信用しないところ、証人長内松之助の証言及び原告本人の供述によれば長内えの馬一頭の売却は昭和二十二年十一月であり、住家、土蔵一棟は原告所有のものではなく、長内と原告とが仲介し、仲介料は受領していないことが認められるから、この点の被告の主張は採用しない。
次に前示乙第五号証、乙第二十三号証に、証人大沢正治、同高杉正の各証言を綜合すれば、右高杉は昭和二十四年二月頃原告から馬車一台を四万五千円で購入していること、当時原告は家屋や馬車の売買の仲介をしていたこと及び税務署員に馬車一台を昭和二十三年十一月大山由蔵え三万円で売却、取得価格五千五百円であつたことを申告している事実を認められるので反証のない限り一万二千円の譲渡所得を得ていることが認められる。
次に前示乙第二十号証及び民事訴訟法第三百二十三条の規定により真正に成立したと認められる乙第十八号証によると原告は昭和二十三年十二月中に自己が小作権を有する大塚春治所有の西赤沼十二番の畑耕作権を大久保清治外六名に十一万五千円で売却し、右代金は昭和二十四年四月頃全部まとめて受領していることが認められるから、原告のように小規模にして原始的な単純取引をするものについて、税法上の所得をいわゆる権利発生主義によることは妥当とは考えられないので、現実に現金を収入した昭和二十四年度の所得とすべきであるから被告のこの主張は採用しない。従つて原告の譲渡所得は一万円二千円となる。
(事業所得十万円について)
証人大沢正治の証言により真正に成立したと認められる乙第十一号乃至乙第十六号証、民事訴訟法第三百二十三条により真正に成立したと認められる乙第十七号証に、証人大沢正治の証言を綜合すれば、別紙(三)のように不動産等の譲渡によつて二十万四千五百円を得て居り、これらはいづれも貸金に対する担保物件を売却したものであつて、金融業の附随的業務といえ、その後昭和二十五年五月までに二十一件に及んで同種の譲渡行為をしていることからして、明かに営利を目的とする所得税法第九条第一項第九号にいう事業所得に該当し、取得価格については譲受人、所轄登記所を調査し、譲受人不明のものは時価を以て算出し、売買年月日の不明のものは、相続税の課税価格によりそれぞれ算定し、売却価格より差引き別紙(三)のように十一万六千七百二十六円となるから必要経費を控除しても十万円の所得はあつたものと認めることができる。
以上認定のように原告の昭和二十三年度所得金額は三十一万二千八百五十七円となるから、その余の判断をするまでもなく被告が原告に対し十五万八千八百円の更正決定をしたのは正当であつて、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用は敗訴した原告の負担として主文の通り判決する。
(裁判官 百武一 安田忠治 荒井徳次郎)
(別紙各目録省略)